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直角になって咲いたスパティフィラム

 58歳の時に、サラリーマンを辞めて古本屋になった。古本屋になりたいと、前々から考えていたのだ。まず店舗をと考えて、これはという物件に決めようと考えたが、折りしもインターネットが普及し始め、ある方から「今古本屋の店売りは下がる一方だから、まずインターネットから始めてみては」と、アドバイスを頂いた。早速、2000年にホームページを開設。その後古書組合に入って、神田の市場で本を仕入れるようになった。
 
 古本屋になって良かったと思うのは、お客様から、「数年来、母の捜していた本が入手できて、母が大変喜んでいる」とか、「大学院で自分の進むべき道に迷っていた時、頂いた1冊の本で自分の進路を決めました」などの、うれしいメールを頂いた時だ。富山の方が、たった1冊の文庫本を求めて来店し、「もしお宅になかったら、国会図書館で全頁コピーしようと思っていました」と話を聞かせてくれ、ブルガリヤの大学の先生は、文学書をまとめ買いしてくれた。はじめは、「ええ!!古本屋やるの」と抵抗感のあった妻も、今では事務所で一緒に机を並べ、パソコンに向かっている。
 
 古書組合の理事の仕事も、させて頂いた。理事の仕事は、確かにかなりの時間が割かれる。理事会、支部役員会、担当の機関紙編集、経理など神田通いが多かった。私は、本屋の2代目でもなく、本屋に修業したこともなくて、本のこと、組合のことをよく知らなかったが、この仕事を通して、理事の方々と面識が出来、沢山のことを教えていただいた。また全古書連の会合で金沢、京都、仙台に出張、地方の市場・古本屋の疲弊状況に何とも言えない思いもした。


 出版不況とか、本のデジタル化とかで、業界にとって厳しい現況だ。何とか、色々手がけたいことは沢山あるのだが、障害も多い。こういったことは、ビジネスにとっては当たりまえのことなのだが・・・。そんな時、事務所の窓をみてびっくりした。驚いた。スパティフィラムの、白い花が咲いていたのだ。それも、小さな窓の窓枠に置いたので、茎は垂直に伸びて上の窓枠にぶつかり、茎を直角にまげその先に白い花を咲かせていたのだ。このスパティフィラムは、娘が開業祝いに事務所に置いてくれたもので、その時は白い花が咲いていたのが、緑色に変わったきり、以来10年間一度も咲いたことがなかったのだ。久しぶりに花が咲き、しかも逆境にめげずに咲いた姿に「がんばりなさい」、と励まされているような気がした。
 
 どんなことがあろうとも、前向きに考え、この仕事を天命と考え、この道を歩み続けたいと思っているのだ。
 

(この文章は東京新聞(2010年7月7日朝刊)に掲載された原稿に、加筆致しました。)
2010.12.10
書物のまほろば バックナンバー目次
自然と人間との闘い 人間同士の闘い そして共生の大切さ
父の従軍日誌
「楚囚之詩」のコピーを、自由民権資料館で見つけた。
「内容見本」は、死語なのでしょうか・・・
グーテンベルグ博物館訪問記
環境問題について
心の煤払い
呼吸法
ぼくの老後

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